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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)2403号 判決 1981年4月30日

原告 遠藤商事株式会社

右代表者代表取締役 遠藤正行

右訴訟代理人弁護士 成毛由和

同 逸見剛

同 立見廣志

被告 中外物産株式会社

右代表者代表取締役 河田順太郎

右訴訟代理人弁護士 井原一

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一〇三九万一〇六〇円及びこれに対する昭和五四年三月二四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

《以下事実省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

被告は、昭和五三年に鳥の餌等に使われる本件飼料その他を中国から輸入してその通関業務を乙仲業者の鈴与に代行委認し、鈴与は右手続を代行して輸入貨物を楠原倉庫に寄託した。被告は、同年八月二九日以前に、右輸入貨物の一部である本件飼料その他を北興物産に売り渡す旨約し、北興物産は、同日、原告に対し、本件粟を代金四〇〇万円で、本件ヒマワリを代金六五一万四五六〇円(この額は、同年九月二二日ころ確定された。)で売り渡す旨約した。北興物産は、被告から荷渡指図書の発行交付を受ける前の同年九月二一日、本件粟(当時未通関)につき、受寄者楠原倉庫を被指図人とする荷渡指図書を発行してこれを原告に交付したところ、原告は、翌同月二二日、本件飼料の売買代金のうち金七九九万四五六〇円を北興物産に支払った。一方、被告は、同月二八日に本件粟を含む中国産粟九八トン余につき、次いで同月三〇日に本件ヒマワリにつき、それぞれ楠原倉庫を被指図人とする本件荷渡指図書を発行してその正本を北興物産に交付し(本件荷渡指図書の発行交付の事実は当事者間に争いがない。)、その副本を楠原倉庫に送付した。北興物産は、同年一〇月二日、本件荷渡指図書裏面の貨物受取署名欄に記名押印の上これを楠原倉庫に送付するとともに、原告に対し、本件ヒマワリにつき、楠原倉庫を被指図人とする荷渡指図書を発行してその正本を原告に交付し、原告は、翌同月三日、北興物産に対し、売買残代金二五二万円を支払った。北興物産は、同年一〇月三〇日及び同月三一日に手形不渡事故を起して倒産したところ、原告は、翌同年一一月一日、楠原倉庫の山下町営業所及び新山下町営業所に赴き、北興物産の荷渡指図書の正本を示して本件飼料の引渡を求めたが、被告から既にその引渡を求められていることを理由にこれを拒絶された。その後、被告は楠原倉庫から本件飼料の引渡を受け、昭和五四年一月二九日までの間にこれを他へ売却した(この事実は当事者間に争いがない。)。

以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

二  《証拠省略》によると、飼料業界においては、取引の迅速を要することから、その取引は殆んど荷渡指図書で処理されており、荷渡措図書に裏書署名捺印した者が当該荷渡指図書の最終所持者であり、その者が当該荷渡指図書に表象される物品の所有者であるとの認識をもって取引がなされていることを認めることができる。

けれども、《証拠省略》によれば、飼料等を輸入する商社である被告と長年倉庫取引のある楠原倉庫においては寄託物につき荷渡指図書の送付を受けてもこれに受理印を押捺し、担当者が目を通して寄託物の引渡担当者に引き継ぎ、これを編綴して保管させるだけで、受託台帳の訂正をしたり、特別な記帳をして整理したりなどすることもなく、これを受領したことを発送者に通知することもしないこと、通常の場合、最終の荷渡指図書の所持人からその呈示とともに寄託物引渡を求められると、荷渡指図書の連続性を確認してこれに問題がないときはこれに応ずるが、その連続性に疑問がある場合は、荷渡指図書の発行者、寄託者等に問い合わせをし、その連続性につき確認が得られたときはその引渡をし、これに異議が出されればその引渡をしない取扱いであることを認めることができる。このことからすれば、飼料業界においても、荷渡指図書は免責証券として取扱われているものであって、その正本又は副本が受寄者に送付され又は呈示されることだけで受寄者の引受その他特段の手続がなされないまま荷渡指図書の所持者に対し寄託物の指図による占有移転の効果が生ずるものと解する余地はなく、また、これによって寄託物の引渡が完了したものとする旨の商慣習又は荷渡指図書の最終所持者が当然に寄託物の所有者となる旨の商慣習があると認めることはできず、他に右の原告主張の商慣習の存在を認めるに足りる証拠はない。

三  さて、一に認定のとおり、北興物産は、被告から本件飼料を買い受ける旨約して本件荷渡指図書の発行交付を受け、被告からその副本が、北興物産からその正本が、それぞれ楠原倉庫に送付呈示されたのであるが、これを受けた楠原倉庫においてその引受その他特段の手続をしたことを認めるに足りる証拠はないから、本件飼料につき北興物産に対する占有の移転は未了であるというほかなく、また、被告が昭和五三年一〇月三一日、北興物産の債務不履行を理由に北興物産との間の本件飼料の売買契約を解除したことは当事者間に争いないところ、《証拠省略》によれば、昭和五三年一〇月三一日、被告は楠原倉庫と協議の上、既に同倉庫に送付されていた本件荷渡指図書の返還を受けたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はないから、右の事実により被告は楠原倉庫に対する本件荷渡指図書による指図を撤回したもの(抗弁事実)と認めることができ、右の撤回は、本件飼料の占有が北興物産に移転される前になされたものということができる。

従って、被告の荷渡指図の撤回は有効であるから、原告は売買による本件飼料の所有権の承継取得につき対抗要件を欠きこれを主張し得ず、また、北興物産の占有を前提とする本件飼料の所有権の即時取得も主張し得ないものである。

四  よって、その余の事実につき判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 久保内卓亞)

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